内藤新宿、宿場町

内藤新宿、宿場町

さて、時は江戸の世（1603～1868年）。徳川の将軍様が天下を治め、世は平和な春のようじゃった。そんな元禄11年（1698年）、新宿に大きな花が咲いた。幕府が甲州街道を立派に整え、現在の新宿駅あたりに「内藤新宿」という宿場町をこしらえたんじゃ。この名は、徳川家康の忠臣、内藤清成にちなむ。内藤殿は、武蔵野の広大な土地を拝領し、その一部は今の新宿御苑や歌舞伎町あたりに広がっとった。内藤家の屋敷は、まるで緑の城のようで、村人たちはその威光に敬意を払った。 内藤新宿は、江戸から甲斐や信州へ向かう旅人たちの大事な中継地じゃった。街道沿いに旅籠や茶屋がずらりと並び、馬借たちが荷車を引いて忙しく動き回った。宿場は、江戸四宿の一つとして、板橋、千住宿、品川と肩を並べ、幕府の役人、商人、旅芸人が行き交う賑わいを見せた。新宿三丁目あたりには、高札場が立ち、幕府の掟が書かれた木の板が旅人に睨みをきかせた。問屋場では、荷物の管理や馬の手配が行われ、汗と笑顔が響き合った。宿場の女将たちは、旅人に温かい粟粥や焼き魚を振る舞い、疲れた心を癒やしたんじゃ。 宿場の周りには、田んぼや畑がどこまでも広がり、米や大根、里芋が江戸の町に送られた。今の新宿御苑は、当時は内藤氏の下屋敷で、桃や柿の果樹園、薬草の畑が美しく整えられとった。幕府の御用林としても使われ、将軍様の狩りや茶会が開かれることもあった。春には桜が咲き乱れ、秋には紅葉が燃えるその庭は、まるで絵巻物のようじゃった。村の子どもたちは、こっそり庭の柿を盗もうとして、番人に追いかけられたもんじゃ。 内藤新宿は、ただの宿場じゃなかった。18世紀になると、芝居小屋や見世物小屋が立ち、歌舞伎や浄瑠璃が人々の心を沸かせた。旅芸人たちは、太鼓や三味線の音に合わせて踊り、観客は拍手と笑顔で応えた。新宿二丁目あたりには、男色文化が根付き、茶屋女や若衆が集まる華やかな社交場が生まれた。夜の宿場は、提灯の明かりと笑い声で輝いたんじゃ。だが、賑わいの裏には悩みもあった。旅人や博徒の喧嘩が絶えず、酒に酔った者たちが刀を振り回すことも。幕府は「新宿番所」を置き、厳しい目で宿場を見張った。 18世紀の後半、幕府の金が尽きて新宿は一時静かになった。旅籠の灯も少なくなり、街道の賑わいも遠のいた。だが、甲州街道の力は衰えず、19世紀の初めにはまた活気を取り戻した。幕末（1850年代～1860年代）になると、黒船の到来や開国の嵐が新宿にも押し寄せた。宿場には、尊王攘夷を叫ぶ志士や、幕府の密偵がこっそり出入りし、茶屋の片隅で未来を語り合った。宿場の空気は、まるで嵐の前の静けさのようじゃった。村の古老たちは、街道の先に新しい世の足音を聞いたもんじゃよ。