縄文の民と甲州街道の遠い夢

縄文の民と甲州街道の遠い夢

むかし、むかし、人がまだ石の斧や土器を手にしていた縄文の時代（紀元前1万年～紀元前4世紀）、この新宿の地には、すでに命の鼓動が響いておった。玉川上水の清らかな流れに沿った肥沃な湿地帯、今で言う新宿駅西口の淀橋と呼ばれたあたりは、まるで楽園じゃった。川には魚が跳ね、森には鳥や鹿がうじゃうじゃおって、縄文の民は狩りや貝採りで暮らしを立てとった。土を掘れば、貝殻や縄文土器のかけらが顔を出し、まるで民の笑い声が今も土に染みついとるようじゃ。考古の者たちが言うには、この地には小さな集落が点々とあり、家族が火を囲んで語らう夜が続いたそうな。 やがて、弥生の時代（紀元前4世紀～3世紀）が訪れると、海の向こうから稲作の知恵がやってきた。民は水田を切り開き、木の鍬で土を耕し、青銅や鉄の道具で暮らしを豊かにした。小さな集落は、木の柵で囲まれ、米や魚を隣の村と交換する交易も始まった。村の広場では、収穫を祝う歌や踊りが響き、子どもたちの笑顔が星のようじゃった。 時が流れ、古墳の時代（3～6世紀）になると、武蔵野の広い台地に、大きな土の山が築かれた。今の高田馬場や四谷のあたりには、立派な前方後円墳がそびえ、地方の豪族たちがこの地を治めた証じゃ。古墳には、土偶や勾玉が納められ、死後も子孫を見守る豪族の魂が宿っとった。新宿周辺は、交易や政治の要として、遠くの地ともつながりを持ったんじゃよ。 平安の世（8～12世紀）になると、武蔵国に朝廷の秩序が入り、農村が広がった。新宿五丁目に、今も鎮座する花園神社は、この頃に生まれたと伝えられる。農の神様を祀り、村人たちは豊かな実りを祈った。神社の周りの木々は、風が吹くたびにざわざわと囁き、村の平和を願っとった。村の娘たちは、神社で織った布を奉納し、若者たちは力比べをして笑い合ったもんじゃ。 鎌倉の時代（12～14世紀）になると、甲州街道と呼ばれる道が姿を見せた。この道は、鎌倉と甲斐の国（今の山梨）を結ぶ軍事や交易の命脈で、新宿はその途中の小さな休息所じゃった。旅人たちは、街道のわきの松の木陰で汗を拭き、湧き水を飲んで力を取り戻した。戦国の世（15～16世紀）には、太田道灌や後北条氏が武蔵野を治め、大久保や百人町に小さな城砦を築いた。新宿はまだちっぽけな村だったが、甲州街道を行く馬の蹄の音や、旅人の歌声が、未来の賑わいを予感させとった。村の子どもたちは、街道をゆく武士の鎧を見て、目をキラキラさせたもんじゃよ。